会話術の本で「オウム返し」を覚えた日の夜、さっそく彼女に試しました。
彼女「今日、電車が遅れて打ち合わせに遅刻しそうになってさ」 僕「電車が遅れて、打ち合わせに遅刻しそうになったんだ」
彼女は一瞬黙って、少し笑いながら言いました。 「……なんか、復唱されてる?」
顔から火が出るかと思いました。 本に書いてある通りにやったのに、なぜ不自然になるのか。 その理由と直し方がわかるまで、僕はけっこう遠回りをしました。
オウム返しが不自然になる3つのパターン
失敗を重ねてわかったのは、不自然なオウム返しには型があるということです。
1. 全文をそのまま繰り返す
冒頭の僕の失敗が、まさにこれです。 相手の文章を丸ごと繰り返すと、会話ではなく復唱になります。 音声メモに向かって話しているような気分にさせてしまうのです。
2. 頻度が高すぎる
一言ごとに返していると、どんなに上手でも機械的に見えます。 オウム返しは、ここぞという場面で使うから効くのだと思います。
3. 感情がこもっていない
言葉だけなぞって、声が平坦なパターンです。 「大変だったんだ(棒読み)」は、何も返さないより距離を感じさせます。
不自然にならない4つのコツ
では、どう直すか。 僕が今も使っている形は、この4つです。
1. 全部ではなく「一語だけ」返す
文章を繰り返すのをやめて、キーワードを一語だけ拾います。
相手「今日、電車が遅れて打ち合わせに遅刻しそうになってさ」 僕「えっ、遅刻しそうに?」
これだけで「聞いてるよ」は伝わります。 短いほど自然になる、というのが僕の実感です。
2. 事実より「感情の言葉」を拾う
拾う一語に迷ったら、感情を表す言葉を優先します。
相手「上司にきつい言い方されて、さすがにへこんだよ」 僕「そりゃへこむね」
出来事の再現は要りません。 相手がいちばん聞いてほしいのは、気持ちの部分だからです。
3. 語尾を変えて、共感か質問にする
同じ言葉を拾っても、語尾で印象が変わります。
- 共感で返す:「へこむよね」
- 質問で返す:「へこんだ? 何があったの?」
繰り返しではなく「反応」に変わるので、復唱感が消えるのです。 相手が話し足りなそうなら質問、話しきったようなら共感、と使い分けています。
4. 3回に1回でいい
毎回オウム返しをする必要はありません。 基本は「うん」「そうなんだ」の相槌で流して、要所だけ言葉を拾う。 僕の感覚では、3回に1回くらいがちょうど自然に収まります。
慣れてきたら「言い換え」に進む
一語返しに慣れたら、自分の言葉への言い換えを試してみてください。
相手「最近、家に帰っても仕事のことばかり考えちゃって」 僕「頭が休まらない感じ?」
相手の言葉を別の表現に置き換えると、「ちゃんと理解しようとしている」が伝わります。 言い換えが外れていても大丈夫です。 「うーん、どちらかというと……」と、相手がより正確に話し直してくれます。 外れた言い換えすら、会話を深めるきっかけになるのです。
職場では「復唱」と「オウム返し」を分けて考える
職場の場合は、少し事情が変わります。 指示の確認は、あえて全文に近い復唱をしたほうが安全だからです。 「金曜までに、A社の見積もりですね」のような確認は、不自然でも何でもありません。
一方、雑談や相談ごとでは、この記事の「一語返し」が生きてきます。 同僚「先週から新しいプロジェクトに入ってさ、もうバタバタで」 僕「新しいプロジェクト? それは大変そうですね」
業務の確認は正確に、気持ちの話は短く。 同じ「繰り返す」でも、目的が違えば形も違う、と覚えておくと迷いません。
練習は「一人あいづち」から始めました
いきなり本番の会話で試すのが怖い人へ、僕がやった練習方法をひとつ。 テレビやラジオのトーク番組を聞きながら、一語返しをつぶやくのです。
出演者「昨日、収録が朝の5時までかかりまして」 僕「5時まで?」
相手がいないので、失敗しても誰にも見られません。 返す言葉を考える時間制限もなく、緊張とは無縁のまま反復できます。 感情の言葉を耳で拾う練習として、これはかなり効きました。 一週間も続けると、実際の会話でも拾いたい言葉が自然に浮かぶようになります。
オウム返しは「確認」のための道具
遠回りした末に、僕はこう理解しました。 オウム返しの目的は、会話を続けることではありません。 「あなたの話を、こう受け取ったよ」と確認することです。
だから、上手に繰り返す必要はないのです。 受け取ったものを短く見せるだけで、役目は果たされます。 少しぎこちないくらいのほうが、一生懸命に聞いている感じが伝わることさえありました。 相槌や質問との組み合わせ方は、聞く力の教科書で全体像を説明しています。