夕食のとき、彼女が職場の話をしていました。 僕は箸を動かしながら、内容はちゃんと頭に入れていました。 誰が何を言って、どう困ったか、全部覚えていたのです。
それでも、言われました。 「ねえ、聞いてる?」
聞いています。 むしろ、真剣に聞いていました。 それなのに伝わらない。 この理不尽さに心当たりがある人へ、僕がたどり着いた答えを書きます。
「聞く」は頭の中の行為で、相手には見えない
最初に、いちばん大事な前提です。 聞いているかどうかは、相手からは直接見えません。 相手に見えるのは、こちらの目線、姿勢、相槌といった「反応」だけです。
つまり「聞いてない」と言われるのは、聞いていないからではありません。 聞いていることが、伝わっていないからです。 問題を「聞き方」ではなく「伝わり方」として捉え直したとき、僕はやっと直し方が見えました。
「聞いてない」と言われる5つの原因
僕が実際に指摘されてきた原因は、この5つです。
1. 相槌が単調で、生返事に聞こえる
「うん」「うん」「はい」だけが続くと、内容を聞いていても上の空に見えます。 僕の場合、考えながら聞くほど相槌が単調になる癖がありました。 真剣さが、かえって逆効果になっていたわけです。
2. 目線と体が別の方向を向いている
箸、テレビ、スマホ。 手元に視線が固定されていると、それだけで「聞いてない」判定になります。 耳は相手に向いていても、体が向いていなかったのです。
3. 先回りして要約してしまう
「つまり、こういうことでしょ?」 僕はこれを、理解の証明のつもりで言っていました。 でも相手にとっては、話を途中で打ち切られる言葉です。 最後まで話したかったのに、と思わせてしまいます。
4. すぐに解決策を返してしまう
「それは、こうすればいいんじゃない?」 正しいことを言っているのに、なぜか相手の表情が曇る。 求められていたのは答えではなく、「大変だったね」の一言でした。 アドバイスは、聞かれてからで間に合います。
5. 事実は覚えているのに、感情に反応していない
これが僕の最大の原因でした。 出来事は完璧に記憶している。 でも「悔しかった」「うれしかった」という感情の言葉を、素通りしていたのです。 相手が聞いてほしいのは事実の記録ではなく、そのときの気持ちでした。
僕が直した順番:体 → 相槌 → 感情
5つ全部を一度に直すのは、僕には無理でした。 だから、効果が出やすい順に1つずつ変えました。
最初は体です。 食事中でも、相手が話し始めたら箸を置いて体を向ける。 これだけで「今日はちゃんと聞いてくれてる」と言われました。 まだ何も聞き方を変えていないのに、です。
次に相槌。 「うん」の連続をやめて、「えっ、そうなの?」「それは大変だ」を混ぜました。 単調さが消えると、生返事だと思われる回数が減っていきます。
最後に、感情への反応です。 相手の話から感情の言葉を探して、そこにだけ短く返す。 「悔しかった、って言ったな」と気づいたら、「それは悔しいね」と返す。 ここまで来て、「聞いてない」と言われることはほとんどなくなりました。
「聞いてる?」と言われた瞬間のリカバリー
直している途中でも、「聞いてる?」と言われる日はあります。 そのときの返し方で、その後の空気はけっこう変わりました。
僕が昔やっていた最悪の返しは、「聞いてるよ」と少しむっとすることです。 事実として聞いていたので、疑われたことに腹が立っていました。 でもこれは、相手からすると「逆ギレ」にしか見えません。
今は、こう返すようにしています。 「ごめん、聞いてたんだけど、ちゃんと聞いてる感じが出てなかったね」 そして体を向け直して、「それで、どうなったの?」と続きを促します。
ポイントは、聞いていたかどうかの裁判を始めないことです。 相手が言いたいのは「反応が薄くて寂しい」ということ。 だったら、反応を直してみせるのがいちばん早い答えになります。 この返し方に変えてから、「聞いてる?」が険悪な空気に発展することはなくなりました。
最強の証明は「あとから覚えて返す」こと
もうひとつ、時間差の方法があります。 後日、「そういえば、この前言ってた件はどうなったの?」と聞くことです。
覚えていた、という事実は何よりも強い証拠になります。 その場の相槌がぎこちなくても、これで十分に挽回できました。 僕は記憶に自信がないので、大事そうな話は当日のうちにスマホへ一行メモしています。 「〇〇さん、来週プレゼン」くらいの走り書きで十分。 話し下手な僕たちには、この「時間差の聞く力」が向いていると思います。
聞く力の全体像や、相槌・オウム返しの具体的なやり方は、聞く力の教科書にまとめてあります。 この記事の内容は、その中の「伝わり方」の部分を深掘りしたものです。