新入社員の頃、歓迎会の席でずっと場を回している先輩がいました。 話は面白く、初対面の人ともすぐ打ち解けてしまう人です。 端の席で相槌だけ打ちながら、僕は思っていました。 「ああいう人が、何もかも得をしていくんだろうな」と。
でも、それから何年か働くうちに、この考えは変わりました。 会話が流暢な人が、いつも有利なわけではありません。 少なくとも僕が見てきた範囲では、そうでした。 この記事では、その理由を場面ごとに書いていきます。
職場——「話がうまい」と「任せられる」は別でした
あの歓迎会の先輩は、たしかに人気者でした。 ただ、数年たって気づいたことがあります。 大事な仕事を任されていたのは、別の静かな先輩だったのです。 口数は少ないけれど、頼んだことを期日どおりに返してくる人でした。
会議で長く話す人の意見が、通るとも限りません。 よく喋るのに中身が伴わないと、聞く側は静かに疲れていきます。 「あの人の話は長い」という空気は、口に出されないまま積もるものです。 一方で、たまにしか発言しない人の一言は、不思議とよく通りました。 発言の量ではなく、それまでの仕事ぶりが重みを作っていたのだと思います。
恋愛——盛り上げ上手より、聞いてくれる人
恋愛でも、似たことを感じてきました。 飲み会で場を盛り上げられる人は、たしかに目立ちます。 第一印象では、圧倒的に有利に見えました。 でも、そこから長く続く関係になるかは、別の話のようです。
僕の周りで長く付き合っている友人には、聞き上手が多いのでした。 「自分の話ばかりの人は疲れる」という声も、何度か聞いたことがあります。 華やかに話す力と、相手を安心させる力は、別の能力なのだと思います。 そして後者は、口下手な人がすでに持っていることの多い力です。
それに、恋愛は面接と違って、回数を重ねていく関係です。 最初の一時間で、全部を判断されるわけではありません。 会うたびに少しずつ打ち解けていった人を、僕は何人も見てきました。 静かな人の魅力は、二回目、三回目と会うほどに伝わっていくものです。
友人関係——深い話は、静かな人のところへ来る
友人関係では、もっとはっきりしていました。 本当に悩んだとき、人はいちばん面白い友人に相談するとは限りません。 少なくとも僕は、静かに聞いてくれる相手を選んできました。 話を茶化さない人、よそで言いふらさない人。 深い相談は、そういう人のところへ集まっていきます。
僕にも、月に一度会うかどうかの無口な友人がいます。 会話はぽつぽつで、沈黙も多いのですが、不思議と疲れません。 気の利いた話をしなくても関係は続くと、教えてくれた相手です。
もしあなたが、いつも「聞いているだけ」の側なら思い出してみてください。 友人から悩みを打ち明けられたことは、ありませんか。 それは、あなたが信頼されている証拠だと僕は思います。
就職や転職——面接の上手さと、入ってからの評価
就職や転職の場面でも、思うことがあります。 たしかに面接では、流暢に話せる人が有利に見えました。 僕自身、言葉に詰まり、手応えのないまま終えた面接がいくつもあります。 あの帰り道の重さは、今も覚えています。
ただ、入社してからの評価は、面接の点数とは別物でした。 面接で輝いていた人が、必ずしも仕事で輝くわけではありません。 逆に、面接が苦手だった人が、現場で静かに信頼を集めることもあります。 仕事の日々は、プレゼンよりも地道な作業でできているからです。 資料の正確さ、返事の確かさ、約束を守ること。 そこでは、話す力とは別の力が毎日採点され続けます。 面接でうまく話せなかった夜に、自分の全部を否定しなくていいのです。
流暢さは瞬発力、信頼は積み立て
誤解のないように書くと、話がうまいことは素敵な力です。 流暢な人を悪く言いたいわけではありません。 ただ、それは初対面で効く、瞬発力のような力だと思うのです。 一方、誠実さや聞く姿勢は、時間をかけて効いてくる積み立て型の力でした。 付き合いが長くなるほど、後者の比重は増していきます。
流暢さをうらやむ夜は、僕にも数え切れないほどありました。 でも、うらやんでいる間にも、あなたの積み立ては進んでいます。 昨日ちゃんと聞いた話、守った約束、茶化さなかった一言。 それらは消えずに、少しずつ信頼の残高になっていくのです。
だから、口下手はマイナス要素ではありません。 勝負どころの時間軸が、少し先にあるだけです。 同じように話すのが苦手な人同士なら、その良さはさらに伝わりやすくなります。 無理に流暢さを追いかけなくても、積み上げていけるものはあるのです。 その全体像は話せなくても、強みで生きていくに書きました。