夕方、オフィスの電話が鳴ります。周りは誰も取る気配がない。受話器へ手を伸ばしながら、僕の頭は「ちゃんと声が出るかな」でいっぱいになります。

一方で、同じ日の午後。チャットで届いた質問には、調べて、整理して、すらすらと返信できていました。

同じ僕なのに、音声とテキストで、仕事の出来がまるで違う。この差に気づいたことが、働き方を考え直すきっかけになりました。

この記事で書くのは、「話せるようになってから頑張る」という発想ではありません。話さなくても成果を出せる環境を選ぶ、という発想です。

話し下手のつらさは、環境しだいで大きく変わる

まず前提として、職場によって「話すことを求められる量」は全然違います。

電話応対が多い職場。朝礼で一言スピーチがある職場。対面の打ち合わせが続く職場。こうした環境では、話し下手のハンデがそのまま評価に響きやすくなります。

逆に、連絡も相談もチャットで進む職場なら、どうでしょう。声の緊張も、とっさの一言も、求められる場面がぐっと減ります。同じ能力の人でも、いる場所によって「仕事ができる人」にも「頼りない人」にも見えてしまう。

つまり、つらさの正体は性格だけではありません。環境との相性という要素が、思っている以上に大きいんです。

IT系・リモートの職場は、テキスト中心になりやすい

では、話し下手と相性のいい環境はどこにあるのか。

僕が知る範囲でいちばん分かりやすいのは、IT系の職場です。開発の現場では、チャットツールやタスク管理ツールでのやりとりが日常になっています。仕様の確認も、進捗の報告も、文字で残すことが基本です。

リモートワークが広がったことも、この流れを後押ししています。離れて働く以上、記録に残るテキストでの連絡が中心になりやすいからです。

もちろん、すべてのIT企業がそうだとは言いません。会議や電話が多い現場もあります。ただ、「文字のやりとりが仕事の中心にある職場」が現実に存在すること。そして、その多くがITやリモートの領域に集まっていること。これは覚えておいて損のない事実だと思います。

日本語でも英語でも、この構図は同じです。チャットとドキュメントで進む仕事なら、流暢に話せるかどうかは主戦場ではなくなります。

「考えてから書ける」は、話し下手の強みになる

テキスト中心の環境が僕たちに合う理由は、緊張が減るからだけではありません。

会話は、その場で即答する競技です。考えている間に話題は流れ、沈黙は気まずさに変わります。僕たちが苦しんできたのは、まさにこの「即答」の部分でした。

チャットやドキュメントは違います。**考えてから書ける。読み返してから送れる。**この2つが許されるだけで、勝負のルールが変わります。

ゆっくり考えて、順序立てて、抜けなく伝える。話すのが苦手な人ほど、実はこれを丁寧にやる傾向があると感じています。とっさの一言で勝負できないぶん、書く前に頭の中で組み立てる癖がついているからです。

会話では「反応が遅い人」だったのが、テキストでは「説明が分かりやすい人」になる。僕自身、この逆転に何度も助けられてきました。

環境を選ぶのは、逃げではなく自衛

「向いている環境を探すなんて、逃げじゃないか」と感じる人もいるかもしれません。まじめな人ほど、苦手から目をそらすことへの罪悪感が強いものです。

僕は高校進学のとき、女子の少ない、地元から離れた工業高校をあえて選びました。人と話すのがつらくて、気楽にいられる場所へ避難したんです。当時は後ろめたさもありました。でも今は、あれは人生で最初にやった「環境選びによる自衛」だったと思っています。

戦う場所を選ぶことは、戦いを放棄することではありません。苦手が致命傷にならない場所へ移り、そこで得意を積み上げていく。詳しくは話せなくても、強みで生きていくにまとめられています。

美化はしません。チャット中心でも、話す場面はゼロにならない

正直なことも書いておきます。

チャット中心の職場でも、会話が完全になくなるわけではありません。オンライン会議で口頭の説明を求められる日もあれば、懇親会のある会社もあります。

それでも、「話す場面が一日中続く職場」と「話す場面がときどきある職場」の差は大きい。緊張する回数が減れば、消耗も減ります。残った体力は、仕事の中身に回せるはずです。

僕は今も、会議で発言する前は心臓が速くなります。それは変わっていません。ただ、話す場面が少ない環境にいるおかげで、その緊張と付き合いながら働けています。環境は僕を変えてくれませんでしたが、守ってくれてはいます。